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知財パーソンの履歴書


小森勇さんの場合 (特許庁 勤務/特許審査官補)
[2009/06/15]



 小森さんは26年間勤務した化学品メーカーを離れ,平成21年4月から任期付職員(特許審査官補)として特許庁へ入庁した。現在は,2ヶ月半の初任研修を修了したところである。メーカーでは長年,研究開発に携わってきたが,その間,異動で経験した4年間の知財実務は,その後の研究者としての意識を変え,現在に至るキャリアチェンジの大きなキッカケとなった。将来,特許審査官として,活躍が期待される小森さんの人物像を迫う。




 小森さんは,平成21年4月から任期付の「特許審査官補」として特許庁へ入庁した。特許庁では,通常,国家公務員採用 I 種試験(技術系)を対象に採用活動を行っているが,特許審査の迅速化の一環として,平成16年度から5年計画で毎年100名規模の「任期付審査官」の採用を行ってきた。また,任期付審査官採用の背景には,平成13年の出願審査請求期間の改正も関連していたと思われる。審査請求期間が,平成13年10月1日以降の特許出願分から,従来の7年から3年へ改正されたことで,平成20年前後に審査請求の数が一時的に増えることが想定されていたこともあり,任期付採用はその対応策だったとも言える。小森さんはその採用追加募集に応募した。

 特許審査官補の主な応募資格は,「理工,生物等の技術系の学士号を取得していること」,「学士号取得後,企業,大学・大学院,研究機関・施設,特許事務所等のいずれかにおける研究開発業務経験(修士課程,博士課程を含む)または知的財産業務経験を通算4年以上有していること」。技術に関する筆記試験と2回の面接により選考される。任期は5年間。任期終了後に再採用されることがある。

 通常採用,任期付採用ともに,入庁後,各部署へ配属されるが,最初の2,3ヶ月間は初任研修(審査官補コース研修)を受けることになる。特許庁での発明の審査は,技術分野ごとに大きく4つの特許審査部に分かれて行われる。特許審査第一部は農水産,土木,建築,物理,光学など,特許審査第二部は機械,特許審査第三部は化学,特許審査第四部は電気,情報,通信,を主に取り扱う。小森さんは,特許審査第三部(高分子)に配属された。

 小森さんのような任期付採用の場合,その後2年間は審査官補として実務経験を積み,さらに審査官コース研修を修了し,3年目に晴れて「審査官」になれる。特許庁において審査の事務に従事した期間(審査官補の期間も含む)が通算5年以上になると,弁理士試験での工業所有権に関する法令及び条約について行う試験が免除される。
 また,審査官としての実務経験が7年以上になると弁理士資格を取得することになる。

知財部への異動が,のちの転職のキッカケに

 小森さんは,地方の国立大学を卒業後,化学品メーカーに就職。長年,自動車・電子材料・建築向けの機能性接着剤やシーリング材,塗料などの研究開発に携わってきた。特許は一定数出願していたものの,開発現場では顧客ニーズに合った製品開発や,納期,クレームへの対応で精一杯だった。そのため,「明細書チェックは知財部にほぼ丸投げ状態。腰を据えて知財を意識する余裕はなかった」(小森さん)と,当時を振り返る。

 小森さんが実務で知財と深く関わるようになったのは40歳を過ぎた頃。グループ本社の知財統括部門への異動が決まる。知財部は10人足らずの規模だったが,出身会社に関わる全ての知財実務を2,3名で担当することになる。業務範囲は特許のほか意匠,商標,知財関係の契約,戦略立案,知財管理,人材教育にいたるまで幅広い。専門的な実務知識を殆ど知らなかったため,異動当初はOJTで上司から叱咤激励の毎日だった。

 勉強すれば必然的に知識も身につく――小森さんは,仕事で必要な知識の習得に,資格・検定受検も積極的に活用する。
 しかし,知財部員に対する弁理士試験,弁理士資格の取得については,企業によってその方針は異なる。メリットとしては,スキルアップ指標となる点,社内弁理士がいれば,各種代理手続きなど専権業務にも社内で対応できる点などがある。一方,デメリットとしては,明細書など出願書類の作成を特許事務所に外注することが実際多く,その方が効率的な面もある点,社内弁理士が多いと弁理士登録料が負担となることもある点,超難関資格ゆえ,相当時間の受検勉強が必要とされ,仕事が疎かになる可能性もある点などが挙げられる。小森さんの会社ではどうだったのだろうか。「会社の方針としては,各種代理手続き,出願書類の作成で外注できるものは外注し,知財部員には知財活動での戦略・立案面で期待していた。知財部の上司も弁理士レベルの能力は求めていなかった。ただ,転職やキャリアアップのためではなく,仕事に役立つ法律知識を実務と並行して習得するには,自分にとって弁理士など資格の勉強はプラスだと思った」(小森さん)。
 実際に,弁理士試験には異動2年目からチャレンジ。4年目には,行政書士試験,ビジネス著作権検定(上級),知的財産検定1級(※2008年に特例講習で1級知的財産管理技能士)に合格する。「知財検定はより実務に即した内容なので知財部員としての力試し,スキルの証明には最適だった。1級は,弁理士試験の勉強と実務経験そのものが試験対策になった」(小森さん)。

 会社上層部からの要請を受け,4年あまりで古巣に戻ることになったが,この間,自社における知財マネジメントの重要性,知財部の役割を深く理解することになった。

研究開発に戻り,勉強会を通じて知財マインドの底上げを図る

 研究所に戻った小森さんは,以前とは違った視点で開発や特許出願に取り組むようになったという。「良い特許を取るために,知財部と対等で活発な議論ができるようになったのは大きい」(小森さん)。
 また,指導者の立場から,研究者一人一人に対して知財マインドの必要性を改めて実感する。一管理職の個人的な活動だったものの,部下や若手を募り勉強会を定時後に主催した。知的財産管理技能検定を知識レベルの到達指標に設定。まずは幅広く基本的な知識を問う3級合格を目標に掲げ,1級合格者として自らが講師となった。「研究開発部門で知財マインドが上がれば,知財部門もそれに応えようと張り合い,相乗効果が生まれる。結果として,知財マインドの全社的な底上げにも繋がったと思う」(小森さん)。他部署と比べて特許出願件数も増え,自主的に検定2級を受検する者も出るなど,効果も表れ始めた。

知財パーソンとしての第二のキャリア

 研究開発への異動が決まった時,正直戻りたくなかったという。「メーカーの経営判断として,知財よりもその源泉となる研究開発,モノづくりを優先し人材を配置するのは当然の流れ。しかし,異動後もまた機会があれば続けたいとずっと思っていた」(小森さん)。そんな折,特許庁の任期付き審査官の募集を知り,受検。合格して転職の決心がついた。

 まずは研修,実務経験を積んで,審査官補から審査官になることが当面の目標。さらに実務経験を積めば弁理士の道も一歩ずつ近づいてくる。任期を満了した後は,企業の知財部,特許事務所,調査会社,(弁理士資格を得ていれば)独立開業と,その後のキャリアの選択肢は多い。「任期終了後,新たに職を求める際,弁理士や,1級知財管理技能士を持っていれば,その分選択肢の幅は広がる。知財部に何年いたとしても,“知財の仕事ができます”と言ってもスキルの証明はなかなか難しい。そんな時,こうした資格や検定はスキルの証明として役に立つ。任期付審査官補に採用された際も,個人的には実務経験に加え,保有資格も見てもらえたのではと思う」。

(文・池田英一郎=テクノアソシエーツ)