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知財高裁の判決が,実務家に新たな行動の指針を与える
森・濱田松本法律事務所 弁護士 末吉 亙氏が提言
[2006/02/09]

弁護士 末吉 亙氏 知的財産権の関連法規の改正と並行して進んだのが,司法制度の改革である。特に,知財関連の専門的知見が必要とされる案件が急増し,裁判所に対しても処理体制の見直しと強化が求められた。2005年4月1日に東京高等裁判所内に支部として「知的財産高等裁判所」が設立され,「松下電器 対 ジャストシステム事件」に代表される重要な知財関連案件を順調に処理している。知財高裁ができた意義と企業の知財業務を行う実務家への影響について,知的財産法を専門とし,企業法務に詳しい森・濱田松本法律事務所の弁護士,末吉 亙氏に聞いた。
(聞き手:知財ナビ編集部)


知財高裁の各判決が知財訴訟実務に与えているインパクトとは
 知財高裁は,東京高裁の支部という扱いでありながらも,司法行政事務の意思決定機関である「裁判官会議」は独自に設けられており,かなり独立して機能している。企業活動に大きな影響を与える知財の問題は,迅速,適正かつ緻密な審理が要求されており,知財高裁の設立によって専門的な知見を持った裁判官が対応する体制が整ったということで社会的な期待も大変大きい。既にいくつかの具体ケースについて重要な判断が下されているが,迅速かつ高度な判断内容になっていると評価している。
 2005年に知財高裁で2件の事件に対して判決がでた。ひとつは,偏光フイルムの製造法の特許に関して,特許庁が特許の取り消し決定を下したことに対して不服を申立てた事件(特許取消決定取消請求事件)。結果的には請求は認められず,特許性が否定されてしまった(11月11日判決)。この特許は,技術的な変数(パラメータ)による数式を用いて物を特定していた(いわゆるパラメータ発明)。しかし,明細書には「なぜこのパラメータを用いて特許性のある物を特定できるのか」について適切な説明がされていなかった。特許性は出願の明細書をみて判断されることになっているが,この明細書の記載が不十分だと特許自体が無効とされてしまう。
 これは,もしかしたら,今後の特許侵害訴訟にも影響を及ぼす可能性がある。従来の特許侵害訴訟では,特許の「新規性」や「進歩性」をめぐって争うことが多かったが,今後は特許法36条に基づき,明細書の記載が要件違反である,という戦い方もできるかもしれない。

もう1件は,松下電器 対 ジャストシステム事件の特許権侵害差止請求事件だ。ジャストシステムのワープロソフト「一太郎」とグラフィックスソフト「花子」が,松下電器産業が持つ特許を侵害しているとして製造・販売の中止を求めていた裁判で,知財高裁は東京地裁が出した第一審の原判決(差止判決)を取り消し,松下側の請求を棄却する判決を下した(9月30日)。知財分野の実務家にとって,この判決が注目されるのは,間接侵害が限定的にではあるが認められたことである。松下は当該特許によって「情報処理装置」と「情報処理方法」に関して権利を得ていた。画面上の表示方法に関する,いわゆる,使い勝手特許である。ジャストシステムの製品はプログラムであり,情報処理装置そのものではないが,特許権を実質的に侵害したという間接侵害(特許法102条)を根拠に松下は製造・販売差し止め請求を行っていた。第一審では,間接侵害が認められ松下が勝訴した。ジャストシステムが逆転勝訴した知財高裁の判決では,結果として,松下の請求は棄却されたわけだが,主張していた間接侵害そのものは東京地裁の判断を一部支持する形で認められた(102条2号を肯定し,4号を否定した)。このことは今後大きな影響を持つだろう。
 この案件でもう1つ考えさせられることは「進歩性」の判断である。この事例では第1審では提出されなかった英文の文献が控訴審で証拠として提出され,松下の特許の進歩性について疑問符がつき,逆転判決につながった。データベースでは完璧にチェックすることができない領域では,実務家は,紛争の最中においても「進歩性がある」と本当に言い切れるかどうかについて,常に気を配る必要があるだろう。

 2006年1月31日にはキヤノンのインクジェットヘッドカートリッジのリサイクル品製造販売に係る特許権侵害差止請求控訴事件の判決が言い渡された。ここでは特許とリサイクルの関係をどう考えるのかという問題について指針が出た。
 そもそも,特許権者または特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許発明に係る製品(特許製品)を譲渡した場合には,その特許製品について,特許権はその目的を達したものとして消尽し,もはや特許権者は,その特許製品を使用し,譲渡しまたは貸し渡す行為等に対し,特許権に基づく差止請求権等を行使することができない(最高裁判決により示されている原則)。しかし,(1)その特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用または再生利用がされた場合,または,(2)その特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部または一部につき加工または交換がされた場合には,特許権は消尽せず,特許権者は,その特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許される(今回の知財高裁判決)。
 リサイクルの問題につき,「修理」か「生産」かで区別しようとしてきた議論を整理し,実務に具体的な指針を示したものと評価できる。



末吉 亙氏 プロフィール
森・濱田松本法律事務所パートナー。1981年東京大学法学部卒業,1983年弁護士登録,第二東京弁護士会所属。日本弁護士連合会(日弁連)の知的財産政策推進本部事務局次長を務めるなど,知財関連弁護士の第一人者である。
主な著書・論文は,『商標法』,「高度情報化社会と法律実務」,「バイオ法研究と検討課題」,「『知的財産戦略大綱』と今後の課題」など。